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「エンジニアリング組織論への招待」のメンタリングに関する考え方がよかった

エンジニアリング組織論への招待」という本がメンタリングに関して参考になったのでまとめてみる。

読んでいて特に「他者説得と自己説得」「セルフマスタリー」に関するところがよかったと思う。マネジメントとかに興味がないエンジニアでも、マネジメント手法を知っていることで自分自身をメンタリングすることができる、っていう考えには大いに賛成。そして組織としてこういうセルフマスタリーできる人材を増やしていこうねーていう方針はものすごく大事。自立、大事だね。

メンタリングとは

メンタリングとは、メンター(メンタリングする人)の思考力を一時的に貸し出し、メンティー(メンタリングされる人)の思考の幅を広げていくことで成長させていく手法のことである。 人はなにか問題を抱えていると冷静になれず感情的になってしまい、普段の思考力を発揮しづらくなってしまうため、メンタリングによってその人が持っている問題を解決することが望まれる。

メンタリングとは「自ら考える人材を作る」テクニックである。例えば「自分の部下は、自分で考えることができない」と嘆いても、事実はさておき、その嘆きは自分にはマネジメント能力がないんだということを表明しているだけで、何ら生産的ではない。もしそういった考えを持ち、部下に対して細かい指示(マイクロマネジメント)を繰り返していると、自律的に考えることのできないような組織を生み出してしまう。

依存型と自立型

かといって放任主義的に部下と接するのではなく、きちんと自立して考えることのできるような人を育てていく必要がある。この本では人材タイプを2つに分けて考えている。

  • 依存型人材(問題を与えられてから考え、問題と解決策を渡されてから動ける)
  • 自立型人材(自ら問題を発見して解決し、問題について自分事として捉えている)

この2つのタイプの境界線は、上司と部下という関係における期待値の問題によって決められる。上司の「ここまで自立して考えてほしい」という期待値と、部下の「ここまでは自立的に考えたい」という期待値の2つが一致していれば問題ないが、現実には2つの期待値が調整されないまま、お互いは不満を持つことになる。

人は自分から考えて動いた結果、評価や周囲からの尊敬を集めると、「自立的に動くことは楽しい」といった感覚を得る。これを自己効力感といい、メンタリングによって期待値を調整して、この自己効力感を作り出していく。逆に自立的に提案したものが無下に却下され続けると、熱意を失い、何をしても無駄だと考えてしまう。このように生まれてしまった無気力を学習性無気力といい、メンタリングによって解決する必要がある。

HRT

メンターとメンティーの関係性に必要なものはHRTと呼ばれるものがある。

  • 謙虚、Humility(お互いに弱さを見せられる)
  • 敬意、Respect(お互いに敬意を持っている)
  • 信頼、Trust(お互いにメンティの成長期待を持っている)

メンタリングというと「上司部下の関係ではなく、直接の指揮系統にない関係」「年長者で経験豊富な人と若者といった関係」などが良いと考えられがちである。これらは一面的には正しいが、年長者で経験豊富であっても、メンティに対して経緯や謙虚さがなければ、メンティは心を閉ざしてしまう。

またメンティ自身の自尊心が高すぎて、自分自身の成長が必要ないと考えていれば難易度も上がる。自尊心が高いように見せている人でも、実際は誰かに弱みを見せられないと感じている人が多い。その場合は、自己承認への欲求が常にあることが多いため、良い行動への承認と悪い行動の考え方を変えていけば自分の弱さを見せられるように変わってくる。

他者説得と自己説得

人から与えられた知識による説得を他者説得、自分自身で気がついたことを自己説得という。メンタリングでは他者説得よりも自己説得を重視する。

自己説得を生み出すには、適切な質問の積み重ねによって、より望ましい解決策を自ら発見できるように促す必要がある。例えばこの本には以下のような例を挙げている。

  1. 後輩「今やっているプロジェクトは残業時間が多すぎてダメなんです。プロダクトオーナーはそれを問題と思ってないんです。」
  2. 自分「プロダクトオーナーは、それを問題と思っていないって、どうして判断したの?」
  3. 後輩「(不意をつかれた顔をして)残業が多い状況をそのままにしているからです。」
  4. 自分「なぜ、そのプロダクトオーナーは残業してまで、今やっている事をしたいと思っているの?」
  5. 後輩「・・・考えたことがなかったです。」
  6. 自分「その人が何を考えているか分からなければ、どうしたらいい?」
  7. 後輩「話し合えてなかったですね。そういうことか。何で気がつかなかったんだ。」

もしこのような場面で、最初から「プロダクトオーナーともっと話し合いなよ」と答えても彼はきっと行動に移すことが難しいだろう。このような質問を通じてメンティの思考回路をクリアにするのが自己説得であり、メンティ自身にとってより精度の高い解決策を導き出すことができる。

「悩む」と「考える」の違い

メンタリングにおいて「悩んでいる」のか「考えている」のかを判断することが重要になる。

悩んでいるというのは、頭の中に様々なことがぐるぐると巡り続け、もやもやがとれない状態だと考えている。これは非常に苦しい上、生産的ではないので「頑張っている」ように感じるわりに結果が伴わない。こういったときは共に考えるための戦略を立てる必要がある。

一方で考えているときには、メモ帳やホワイトボードなどに課題を書き出し、分解したり抽象化したりといった何かと忙しく行動をとっている。また答えが出ていなくても次に何をしたらよいかが明確になっている。メンタリングではこのように「次にとるべき行動」がはっきりするように促す必要がある。

「わかった?」は意味のない言葉

何かを説明したときに「わかった?」と聞くのは、全く意味のない行動である。それは「メンターにとってのわかった」と「メンティーにとってのわかった」に違いがあるからだ。この違いを埋めるためには、「代わりに自分の言葉で説明してみて」と行動をうながすような方法がある。もしも本当に「わかっている場合」はその行動をうまく行うことができますし、「わかっていない場合」はその行動をうまく行うことができない。

ゴールへのタイムマシンに乗る、セルフマスタリー

メンタリングによって、メンティを以下のような状態に導いていく必要がある。

  • 自分の気がつかなかった問題に気がつくようになる
  • 認知の歪みによる感情と問題の癒着を切り離せる
  • 答えではなく、次の一手を生み出す行動が取れるようになる

この状態はつまり、メンティがメンティ自身をメンタリングしていける状態を意味している。この状態を生み出すために重要なのが「ゴール認識」であり、ゴールとは自分自身で課した目標のようなものになる。しかしメンティがコンフォートゾーンの中にいると、「もっと仕事ができるようになりたい」「一人前の技術者になりたい」といった抽象度の高い目標を設定しがちになる。

そのためメンターは、メンティーにとって今の自分では達成できそうにない高いゴールを引き出していく必要がある。本当はどうありたいか、本当に人生で成し遂げたいことは何だろうかというように問いかけ、その人が本当になりたいものを共に見つけていく。「使い切れないだけのお金が欲しい」といった原始的な願望でもよい。高い目標を掲げていると、今まで見えなかったものが見え、自分には何が足りないのかといった考えが身につく。

しかし、ゴールに対してどのように考えているかという認識(ゴール認識)が伴っていないと行動変化には移らない。

  1. 「お金もちだったらな」:~だったらなあと漠然と思っているレベルのゴール認識
  2. 「お金もちにならないといけない」:達成しなければならないと誰かから押し付けられたゴール認識
  3. 「お金もちになりたい」:達成したいと自分で構築できたゴール認識
  4. 「お金持ちになるぞ」達成しようと決意をもって構築できたゴール認識
  5. 「お金もちになっている」:達成しているという確信をもって行動できているゴール認識

レベル2の「~になりたい」というゴール認識になって、ようやく見えるものが少しずつ変わってくる。レベル3の「~になるぞ」という段階で初めて行動に変化が訪れる。もっとも高いレベル4の「~になっている」という段階で、継続的な行動、つまり習慣が変化し始める。

レベル4では「未来に行って見てきたような確信」をもっていることから、この著者は「ゴールへのタイムマシンに乗った」状態と表現している。メンティがゴールへのタイムマシンに乗った状態になれば、自分の今の状態を未来から見て、メンタリングすることができる。このように将来の自分が今現在の自分をメンタリングしている状態を「セルフマスタリー(自己熟達)」を得たと表現する。メンタリングは、メンティがこのセルフマスタリーを得ることによって完成するといってもよい。そうなればもはやメンターは必要なく、メンティ自身が率先して学習していく状態になる。


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